つくば市・筑波大学共同事業 #13
多様性が尊重される世の中へ-社会科学で挑戦を続ける
筑波大学ヒューマンエンパワーメント推進局 助教、博士(政策科学)
福嶋 美佐子(ふくしま みさこ)さん
筑波大学ヒューマンエンパワーメント推進局(BHE)助教。大学卒業後、企業勤務を経て米国の大学院修士課程に進学。それをきっかけにDEI(多様性、公平性、包括性)と国際協力に関心をもち始める。帰国後、企業内研究所勤務の傍ら、社会人大学院に進学し、博士号取得。途上国の子どもたちへ教育支援をする国際NGOの副理事長とその国際ネットワークの理事、首都圏にあるインターナショナル学生寮の理事も務めている。
―具体的な業務内容を教えてください。
筑波大学ヒューマンエンパワーメント推進局(BHE)で働いています。BHEは全ての学生・教職員が自分らしく学び、働くことができる環境を作っていく部署です。ジェンダー支援チーム、アクセシビリティ支援チーム、キャリア支援チームの3つのチームが協力して活動しています。私が担当するキャリア支援チームの主な役割は、学生の卒業後のキャリアをサポートすることです。
また、教員としてキャリアに関する授業も担当しています。研究者としては、外国人留学生の就職とその後の日本社会への定着を研究テーマにしています。日本で働く外国人や企業の人事部を対象にインタビューをする質的調査に基づく研究です。筑波大学にはさまざまな分野の先生がいらっしゃるので、アドバイスをいただきながら進めることができています。
―ご自身の職域(テーマ)について、興味を持ったきっかけを詳しく教えてください。
きっかけは2つあります。1つ目は、アメリカの大学院修士課程で社会学を学んでいたときに、ユダヤ人やパレスチナ人、セクシャルマイノリティなど多様な教職員や学生に出会ったことです。さまざまな人種、民族、ジェンダーの人々が一緒にいることが当たり前の環境にいたことで、ダイバーシティに興味・関心をもつようになりました。
2つ目は、同じく修士課程の時に国際協力機構(JICA)アメリカ合衆国事務所のインターンになったことです。せっかくアメリカにいるのだからと現地の企業・団体でのインターンシップを希望していたのですが全く受からず、最後に「応募者の中で一番日本語が上手だから」という理由で合格したのがJICAでした。そこで世界銀行本部での障害者教育に関するイベントを担当するなど国際協力に携わったことは、現在のBHEでの業務に繋がっていると思います。
―達成感ややりがいを感じられる瞬間はありますか?
研究において、達成感を感じたことはまだありません。知りたいことを明らかにするために研究を進めると、新たに分からないことが出てきます。その分からないことを次のテーマとすることで、研究はずっと続いていくものだと思っています。私が専門とする社会科学は、世の中との接点が多い分野です。私たちの分野の研究の成果が政策に反映されたり、それによって世の中が少しでも変わったりしたときに続けてきてよかったと思います。
キャリア支援に関しては、サポートした学生の研究が評価され、希望する職に就くことができたと聞くと嬉しくなります。また、今年は研究機関の合同説明会を開催し、学生から「知らない研究所だったが話を聞いてみるとおもしろかった」などの感想をもらった際、いい機会を作ることができたと思いました。
―研究者としての今後の展望を教えてください。
現在は外国人に対して風当たりの強い時代になっていると感じます。さまざまな意見や考え方を尊重しつつ、寛容な世の中にすることに研究者として貢献できたらと思っています。
―子どもの頃のエピソードを教えてください。
小学生の頃から、みんなに合わせることやいつもと同じようにすることを疑問に思い、「普通」という言葉に違和感を覚えていました。受験をして多くの同級生とは別の中学校に通いました。そこで印象に残っているのは、入学して最初の国語の授業で、ある生徒が別の生徒の「普通は〜」という発言を受けて「君の『普通』と僕の『普通』は違う」と言ったことです。それを聞いて私と同じように感じている人がいることを知り、気が楽になりました。両親からは変わった子だと思われていましたが、今なら「普通」が居心地のいい人とそうではない人の違いだと分かります。得意だった科目は社会科です。だから、今でも社会科学分野に携わっているのだと思います。
―子どもの頃抱いていた将来の夢を教えてください。
具体的な職業を思い描いていたわけではありませんが、責任をもって長く続けられる仕事に就きたいと思っていました。しかし子どもの頃は身近にお手本になるような人がおらず、どんな仕事が当てはまるのか見当もつきませんでした。小学生時代、同級生に「お父さん、お母さんは何をしているの?」と親の職業を聞いて回ったことがあるのですが、どれを聞いてもワクワクしませんでした。どんな職業をおもしろいと思うかは人それぞれなので、正解はないと思います。しかし今思い返すと、私が求めていた回答はそれまで出会ったことのなかった「研究者」だったのかもしれません。
―学生時代の経験で今に役立っていることはありますか?
大学では学園祭実行委員会に入っていました。その頃からみんなでイベントを作り上げる達成感が好きで、BHEで多数開催している就活イベントなどの準備や運営を今でも楽しんでいます。また、筑波大学でウクライナからの避難学生を受け入れた時には、想定より避難期間が長引いたので、日本での暮らしや就学だけでなく、進学や就職のサポートも行う必要が生じました。その際には、インターンシップでお世話になったJICAに連絡をして協力してもらいました。さまざまな経験はその時々では点かもしれないけれど、いつか繋がっていくことを実感しています。
―これからの目標はありますか?
年に一回、大学院博士後期課程学生が自身の研究内容を発表する場を設けているのですが、今後は人が集まる駅やスーパーマーケットなどにもお知らせのポスターを掲示する予定です。つくば市内の子どもたちが大学院生の研究を知るきっかけにして、「こんなお兄さん、お姉さんみたいになりたいな」思ってもらえたら嬉しいです。
―研究者を目指す若い世代にメッセージをお願いします。
知らなかったことを知っても、また分からないことが出てくるという繰り返しが、研究のおもしろいところだと思います。つくば市には研究所がたくさんあって、世界中から多様な分野の研究者が集まっています。DEIの社会実験に参加している気持ちになれます。身近に研究者がいる環境は貴重だと思うので、ぜひ興味をもってほしいです。また、自分にとって当たり前のことが、時と場によって意外な強みになることを、JICAで日本語を理由に採用された時に実感しました。「自分はこんなことしかできない」と思っていても、その「こんなこと」がキャリア形成に繋がるかもしれないことを伝えたいです。
取材・文:佐藤 碧/ マンガ・デザイン:中林 まどか
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