つくば市・筑波大学共同事業 #8

科学の面白さを伝える仕事

高エネルギー加速機研究機構(KEK)広報室 特別技術専門職
博士(理学)
つくば科学教育マイスター

青木 優美(あおき ゆうみ)さん

栃木県出身。総合研究大学院大学高エネルギー加速器科学研究科素粒子原子核専攻修了、博士(理学)。株式会社しびっくぱわーでのコミュニティスペース等の運営を経て、高エネルギー加速機研究機構(KEK)広報に着任、サイエンスコミュニケーターの役割も担う。2019年からは個人活動として物理をモチーフにしたアクセサリー販売や実験教室を実施。2024年9月つくば科学教育マイスターに認定。趣味はカメラと料理。

―業務内容について教えてください。
KEKの広報として記事の執筆、 プレスリリースの確認、SNS、 パンフレットの作成のほか、サイエンスコミュニケーターの役割も担っています。サイエンスコミュニケーターとは、科学の専門知識をわかりやすく伝え、社会と科学をつなぐ人材のことです。トークイベントで研究者の話の聞き手となり専門用語の言い換えや補足などをして伝わりやすくしたり、出前授業「KEKキャラバン」 でKEKの研究に関する実験教室を行っ たりしています。

―やりがい、醍醐味を感じられる瞬間はいつですか
実験やKEKの研究に対して「面白い!」、「すごい!」と言ってもらえることが嬉しいです。イベントで直接来場者とお話しすることで、普段広報していることが届いていると実感できます。また、実験教室に参加した子どもたちが「こんなこと発見したよ!」と教えてくれたり「これはどうして?」と素朴な疑問をぶつけてくれたりしたときには「興味を持ってもらえた!」と嬉しくなります

―現在に至るまではどのような研究・業務をしていましたか?
大学院では素粒子物理学を専攻していました。素粒子物理学が目指すのは、宇宙を支配する法則を数式で表すことです。「対称性」を手掛かりに数式をよりシンプルにしていきます。私は、この「シンプルにまとめる」という点に惹かれています。テーマは次世代の線形加速器「国際リニアコライダー(ILC)」の研究開発を選びました。ILCは将来の加速器なので、自分の手で設計を工夫する余地があるということが魅力的でした。大学院在学中にILCに関する広報活動を経験し、科学を伝える活動に関心を持ったため、卒業後は企業の広報部で働き、その後KEKで広報の採用枠があり転職しました。

―ご自身の研究について興味を持ったきっかけを教えてください。
最初に素粒子について知ったのは高校生のときで、進路指導室で偶然見つけた『神の素粒子』という本がきっかけです。しかし、すぐに素粒子を研究しようとは思わず、大学学部生の頃は化学を専攻していました。化学では分子同士の反応を扱いますが、そこでは電子の動きが重要になり、化学反応を深く理解するためには物理学も大切なのだと気づきました。そこから改めて素粒子に興味がわいて、大学院に進学するタイミングで素粒子物理学に転向しました。

―今後の展望について教えてください。
子どもも大人も、障害があっても、みんなが科学を楽しめる場づくりに挑戦しています。KEK一般公開でも「手話×科学」をテーマにワークショップを行いました。将来は、理科室とカフェが併設された場所を作
りたいです。科学と日常ののりしろを作れる人になれたら、と思っています。

―休日の過ごし方について教えてください。
写真を撮ったり、料理をしたりしてリフレッシュしています。個人で実験教室を開いたりアクセサリー販売イベントへ出たりもしています

―子どもの頃のエピソードを教えてください。
ものづくりが好きで、小学校のクラブ活動ではテディベアやブローチを作っていました。両親には実験教室に連れて行ってもらうこともありました。好きな科目は美術・音楽で、社会に苦手意識を持っていました。当時は暗記ばかりでつまらないと思っていましたが、今は科学史を学んだことで「物事のつながりを知る学問だ」と感じられるようになったので学ぶのが楽しくなりました。

―親御さんやご兄弟、ご友人などからはどんな子だと言われることが多かったですか?
みんなに口を揃えて「無口」だと言われていました。病院の先生やピアノの先生ともあまり話さず、心配されることもあったようです。一方で好奇心旺盛な一面もあり、何事にも興味を持って取り組んでいたといいます。私が「これはつまらないからやらない」と言ったことはなかった、と父は言っていました。中学校のプログラムでオーストラリアへのホームステイに挑戦したり、ボランティア活動をしたりする中で、積極的にコミュニケーションをとるようになったと思います。

―子どもの頃抱いていた将来の夢を教えてください。
お菓子づくりが好きだったので、みんなに笑顔をおすそわけできるパティシエになりたいと思っていました。中学校での担任の先生に、栄養学を学んで製菓に生かしたらどうか、と勧められたことをきっかけに高校では理系に進み、そのうちに理科自体が面白くなり、いつしか幅広く職業を考えてみたいと思うようになりました。

—進学先を選んだ理由、各校の特色、所属したサークルなど学生時代について教えてください。
大学は、学びたいことが多すぎて選べなかったので、学際的に学べる上智大学を選びました。サークルは、高校の放送部でドキュメンタリー番組を作っていたこともあり、動画制作サークルで1年間だけ活動しました。教職課程を取っていたので、2年生からは勉強に集中しました。大学院は、学生数に対して教員の数が多く手厚い指導が受けられること、実験装置がすぐそばにあり現場に触れられることを魅力に感じ、総合研究大学院大学(総研大)に進みました。 化学から物理に転向した私は足りない知識や経験が多々あり大変でしたが、指導教員や先輩たちの支えで博士号を取ることができました。

—これまでに影響を受けた人物や作品はありましたか。
科学に対する向き合い方や、学ぶ上での姿勢は大学院のときの指導教員から大きく影響を受けました。「科学の前ではみな平等であるべき」という言葉から、学生も教員もフラットに議論することができました。また、先生が教えてくれた「学び方」は今の「教え方」につながっています。授業では、一度教わったことを今度は私が先生に授業して、説明できなかったところを復習しました。「わかった気」にならず、人に説明できるまで理解することを大切にしていました。身近にあるもので実験をして、理由を説明するトレーニングもしました。今私が実験教室で大切にしている、身の回りの現象に好奇心を持ち発見をすること、それを今ある知識で考えてみることは、先生のやり方を真似しています。

—研究者を目指す若い世代へメッセージをお願いいたします。
好奇心を道標に突き進んでほしいです。自分のやりたいことに挑戦するために異なる環境に飛び込むことを恐れないでほしい。どんな道を選んでも、そこで得られた経験はこれから必ず役立つときが来ると信じています。

 

取材・文:河野 晴香/ マンガ・デザイン:中林 まどか(2024年9月発行)

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