つくばこどもクエスチョン2020 ダイジェスト映像(03:51)
「現在の小学生の65%が、現時点で存在しない職種に就くことになる」
アメリカで提示された少し先の未来は、日本でも例外ではありません。日本の労働人口の約49%が就いている職業は10〜20年後にAIやロボットによって代替される可能性が高いという調査レポート※1もあります。
AIでは代替できない、他者と協働しながらイノベーションをうみだす力を身に付けた人材を育てたいと、文部科学省は小学校でのプログラミング教育の必修化をスタートさせるとともに、高等学校での”STEAM教育”※2の推進を検討しています。
つくば市は、研究都市ならではの科学教育事業の取り組みを他の自治体に先駆けて進めてきました。その一貫として開催されたのが、小学校4年生~6年生を対象とした『つくば こどもクエスチョン 2020』です。
「つくばの研究者と一緒に、きみの興味を研究にしよう!」と銘打ったイベントは、研究者からこどもたちへ一方的に知識だけを伝えるものではありません。こどもたちが研究者との対話を通して、主体的に学ぶ楽しさを体験し、今後も継続的に学んでいく弾みをつけることを目的に実施しました。
本レポートでは、こどもたちの好奇心をどのように引き出し、”生きた学び”につなげていったのか、その仕掛けを当日の参加者の声をまじえて紹介します。
領域はさまざま。最先端の研究者が集合!
小学4〜6年生 約60名に対して十分なサポートができるよう、研究者は11名が参加。数多くの研究機関が集積するつくばらしさを象徴する多彩な研究者に集まっていただきました。
参加した研究者のみなさん
本物の「研究」に没入する1日
当日は、大きく「知る」「作る」という2つの活動を行いました。
午前は研究について「知る」、午後は研究計画書を「作る」時間です。
集まった小学生たちはあらかじめ用意された研究テーマを選び、5-7人ごとのグループを作りました。研究者と一緒に「こども学会」として各自、研究活動にいどみます。
タイムテーブル
イベント終了後の「放課後タイム」は、どの研究者にも質問し放題。プログラム内で質問できなかったことを、さらに深く追求するための時間としました。
研究者の背中から、研究にむかう姿勢を学ぶ
対話型ワークショップの形式で行った「知る活動」。研究者は自分の研究のデモンストレーションを実施し、こどもたちは研究者に質問をしていきます。
熊谷組の財満 健史(ざいま たけふみ)先生
住友化学の西 美樹(にし みき)先生
研究者はポスターやパネルを使った説明は原則NG。体系だった説明ではなく、楽しさや苦労、悩みを伝えることをお願いしました。服装や持ち物も、普段着用しているもの。
こどもたちが「おもしろい!」と思わなければ好奇心は育たない。どうしたらおもしろいと思ってくれるだろうか?そんなことを考え、今回は「研究」と「研究者」のリアルから好奇心のタネを生み出そうと試みました。
例えば、なぜその研究を始めたの?という質問。
- 生き物が大好きで、ゆくゆくは生物に近いロボットを作りたい(望山 洋先生)
- 目に見えない”音”を可視化して、その空間に合った音を探求したい(財満 健史先生)
- 解剖学を学んだきっかけは、コスプレ。フルフェイスの仮面のクオリティにこだわる中で骨格を調べるようなり、大学で解剖学を学んだ。博物館を直接触れたり楽しめる場所にしたい(森 健人先生)
「なぜだろう?」「〇〇が好き!」という好奇心が、いまの研究につながっていると知ったこどもたち。最初は少し緊張した表情でしたが、研究内容だけでなく、研究に取り組むきっかけやエピソードを聞くことで、次第に熱量を共有されていきました。
- 「自分が興味を持ったことが、一般的には知られないことだったりニッチなことだったりして人に話すのが恥ずかしいと思うこともあります。それなら、まずはこっそり自分の部屋で一人でやってみてもいいから、自分が興味を持ったことを大切にして欲しい」「今やっていることが本当にやりたいことじゃないかもしれない。けれどとにかくやってみることが重要で、明日やりたいことが変わってもいい。迷ってもいい。まずはやってみよう」(森 健人先生)
こんなアドバイスまで飛び出したりと、あっというまの「知る時間」でした。
国立科学博物館の森 健人(もり けんと)先生
興味を研究にする「研究計画書」づくり
午後は「作る活動」。
ワークシートをつかって自分の研究計画書を作成していきます。
研究者との対話で学んだことやワクワクしたことを「楽しかった」で終わらせないために、これからのアクションプランを「研究計画書」として言葉とイラストでまとめました。
こどもの豊かな想像力 vs 一流の研究者
こどもたちからは、大人では考えつかない一見突飛なアイデアがどんどん飛び出します。これらひとつひとつに、研究者たちは専門家の視点から、研究の方向性、調査方法、今後の将来性など研究計画をブラッシュアップするアドバイスを行いました。
例えば、「#古生物学 #3D造型 学会」では、芝原先生が持ってきてくれた化石の標本が並び、3Dデータを使って地表を再現した模型や化石が浮き出るモニター、古生物にまつわる本などが広げられたテーブルで研究計画を深掘りしていきます。
- 「食用マンモス肉の研究」をしたい
→(芝原先生)肉が発見されてるからできる!ロシアとの交渉が必要ですね! - 「世界最大の恐竜博物館を作る研究」をしたい
→(芝原先生)自治体との交渉が必要ですね! - 「両生類ゲロトレックスとウーパールーパーに関する研究」をしたい
→(芝原先生)立派な進化学の研究なのでCTスキャンなど病院の設備が必要だ! - 「アンモナイトは滅んだのにオーム貝はなぜ生き延びているのか」をしたい
→(芝原先生)地球進化学に対する最新の研究になる! - 「食用ティラノザウルス」をしたい
→(芝原先生)肉はまだ見つかってないけどペプチド、コラーゲン状のものは発見しているから、食用マンモス肉の彼女と共同研究して人口食用肉に取り組むのが良さそう!
こどもたちの斬新なアイディアをどうしたら実現性できるか、真剣なアドバイスが繰り広げられました。
また、もともと興味をもっていたテーマが、「知る時間」での学びから視点が広がり、ぐっと実現可能性が高まったというケースも。「古生物と太陽光発電を合体:化石と太陽光発電を使ってどのように地球を救うか」という研究テーマは、「知る時間」でインプットした環境問題を絡め、より広い視野で研究テーマを思いつき、複数の研究者にアドバイスを求めてできたものです。
一見斬新で実現不可能そうなアイディアも、研究者の正面からのアドバイスで実現可能に思える研究へと様変わりしていきました。
こどもたちの研究に熱心にフィードバックをする地球科学可視化技術研究所の芝原 暁彦(しばはら あきひこ)先生
つくば市として、こどもたちの発想を伸ばす支援を
当日は副市長や教育長も現場に駆けつけ、こどもたちの様子をみた感想を寄せていただきました。
- 『研究者の伴走でこどもたちの変化と成長を』(つくば市 毛塚 幹人 副市長)
こどもたちが目を輝かせながら自分の好奇心に基づいて探求する姿に、『こどもたちは生まれながらに研究者なんだ』と思いました。つくばにいる研究者が伴走しながら、好奇心をもとにどうやって深掘りしていくのか、対話を通じて吸収してくれているように感じます。 - 『学校教育と外部施策が結びつく仕組み作りを』(つくば市 森田 充 教育長 )
学校教育と今回のイベントのような施策が結びつく仕組みができれば、学びの連続性と発展性という意味でよりつくばらしい教育ができるなと思います。こどもたちの発想はすごいですよね。”なんでだろう””どうしてだろう”を大事に育てていきたいです。
本イベントは、さまざまな分野で活躍する研究者との対話の中で、「なんでだろう」「作りたい」という素直な気持ちの芽生えと、探求していくための最初のアクションを支援するものです。
イベントが終了したあとも、定期的に研究者との接点を持つ機会を作ることで、さらなる継続的な探求活動の環境作りを目指しています。
詳細は、https://www.tsukuba-steam.com をご覧ください。
※1 出典…株式会社野村総合研究所「日本の労働人口の49%が人工知能やロボット等で代替可能に~ 601種の職業ごとに、コンピューター技術による代替確率を試算 ~」(2015)https://www.nri.com/~/media/pdf/jp/news/2015/151202_1.pdf
※2 STEAM 教育…Science, Technology, Engineering, Art, Mathematics 等の各教科での学習を実社会での問題発見・解決にいかしていくための教科横断的な教育
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